舞台「見よ、飛行機の高く飛べるを」
- toohironman
- 2019年3月17日
- 読了時間: 6分
うめちゃんの舞台が決まった事を知ったのは病床の中ででした。その発表がされた時に彼女がどんな顔をしていたのか、どんな気持ちでいるのか、僕は知る由がありませんでした。
その後発表された舞台の内容は、前回出演したアイドル中心のキャストではなく本格的な劇団で演じられるものでした。 人見知りな彼女が果たして経験のない劇団のお芝居そしてメンバーの中に溶け込んでいけるのか…すごく心配で。でも、それは杞憂でした。稽古が始まってから毎日のように共演者の方々がUPされる写真や動画の中に本当に楽しそうに笑う彼女の姿があったんです。ああ…いいお仕事に恵まれたなあ…僕はそれを見て本当に嬉しかったんです。
まだ舞台に行けるかどうか…いや、たぶんその時は行ける可能性はほとんどゼロだったはずです。それでも僕は全公演のチケットを手に入れました。そう、まるで自分におまじないをかけるように。
全員卒業が発表され、卒業公演の日程が決まっても彼女と会えない日が続きました。耳に入ってくるニュースの全てが僕にはネガティヴなものに思えて仕方なかったです。ともすれば自暴自棄になる事が多くなっていた僕を救ってくれたのは、彼女の言葉でした。
「奇跡は何度でも起こせる」 彼女の言葉は本当でした。僕は、彼女たちの最後のステージに間に合う事が出来ました。そして、彼女に伝える事が出来たんです。「また会おうね」って。
中2日で、舞台「見よ、飛行機の高く飛べるを」の初日をむかえました。 アイドルではなく、☆Nonsugarのメンバーの一員としてではなく、ソロのタレントとして臨む初めての仕事。この日の為に贈ったスタンド花もこれまでのアイドルらしい可愛い感じでは無く「女優・梅山涼」としてのスタートを祝うテイストのものにしました。本格的なシアターの椅子に腰を下ろして、僕はまるで自分が舞台に立つかのようにドキドキしてその時を迎えました。
このお話は、明治時代、愛知県にある女子師範学校(今の教育大学)が舞台です。まだ封建主義男尊女卑が根強く残る時代。女性の地位向上や自立への活動の息吹に刺激を受けた女子生徒たちの物語です。 このお話、決してハッピーエンドではありません。自立を目指しストライキを企てた生徒たちは、学校側の圧力であったり、将来への不安だったり、色んな理由でそれを断念していきます。そして、残った3人の生徒。光島延ぶ(廣瀬響乃さん)、杉坂初江(小野寺ずるさん)、北川操(うめちゃん)も、まず北川が抜け、結果的に光島も新庄先生(松本祐一さん)のプロポーズを受け入れ抜けてしまいお話はエンディングを迎えます。退学になった木暮婦美(篠田美沙子さん)、迷いながらも抜けていった大槻マツ(田中菜々さん)…きっと何らかの挫折感を残したまま物語が終わるのです。
そこに残る、後悔や挫折感、ひょっとしたら罪悪感もあったのかもしれません。それでも光島が杉坂に言った「知らないより知ってる事に意味がある」というセリフ。なしえなかった彼女たちの想いが切ない空気を作り出していました。苦難の時代を生きてきた。そんな中でも立ち上がった女性たちがいた事。そんな事を感じさせてくれるストーリーでした。
二人の「ヒロイン」。廣瀬さんと小野寺さんの演技は圧巻でした。優等生が新しい世界を知り、その純真無垢さからかどんどんそれに染まっていく光島を演じた廣瀬さん。卑屈な所もあるんだけど愚直なまでに女性の明日を目指した杉坂を演じた小野寺さん。特に終盤の感情を爆発させるシーンは鳥肌ものでした。
四年生の面々は実に個性豊かでした。何度かモデルとして撮影させてもらったことがある田中菜々さんは、普段の豊かな表現力を女優としていかんなく発揮していました。退学して去っていく友の名を連呼して泣き崩れる演技には引き込まれました。コミカルなキャラを演じていた難波なうさん。常に笑いを集めるようなシーンを演じていましたが、仲間を裏切った悔恨の想いをにじませる演技には思わず涙を誘われました。突然の出来事に翻弄され、男性に心を奪われた結果「時代」に許されず退学を命じられた役を演じた篠田さん。望んでいない恋だったのかもしれません。でも、それに心を奪われてしまった切なさの演技が素晴らしかったです。
先生方もそれぞれ魅力的な方々ばかりでした。 松本祐一さんが演じた新庄先生は気弱ながらも、生徒に魅かれてしまった苦しい心の中を吐露するシーンが良かったです。結局は自分の想いを貫いたんですね。加藤大騎さんとCR岡本物語さんも先生役としていい味を出してました。典型的な脇を固める役どころなんですが、表面的な部分が前面に出る中で垣間見た人柄っぽい描写が印象に残りました。終始憎まれ役だった青田先生が「綱引きだーーーーー」と叫んだあと見せた切ない表情、実は二人のヒロインを心配してたのでは?ように見えました。
また、お局的な立ち位置の鍋倉和子さんも、古い考えながら理解を示そうとする姿を演じていたように感じましたし、賄い役の岩堀美紀さんも存在感たっぷりの演技を見せてくれました。安達先生役の赤崎貴子さんの前半の進歩的な考え方の淑女ぶり一変させた演技は、生徒たちを想って自らの考えを閉じ込める苦悩を表現する圧巻のものでした。
俳優陣で特に印象深かったのは、板谷順吉役の岩田玲さん。全て夜の暗い場面での登場の為表情はほとんど見えないのですが、その迫力あるセリフだけですさまじいまでの存在感を示してくれました。
そして、校長先生役の山崎亨太さん。恰幅のいい体格から発される張りのある声が高圧的な権威の象徴である校長という役柄を実に見事に演じられてました。毎回、終演後にお話をさせて頂いたのですが実際のキャラは実はまったく反対の優しいジェントルマンだという事も印象を強くした理由でしょうか。
最後に「下級生組」。3年生の「先輩」役だった栗田真衣さんと岡田花梨さん。同い年という事もあって、いつもうめちゃんと一緒に行動してくれてたみたいです。ほめられた北川に梅津・石塚の二人が厳しく詰め寄ったあと、「やったじゃん?」って感じで肩と肩を寄せ合うシーンが大好きでした。
うめちゃんにとって、今回の舞台が☆Nonsugarを卒業して最初のお仕事だったという事は結果的なのかもしれませんが本当に良かったと思います。 感情のぶつかり合いが絶妙なハーモニーを生み出すような「プロの世界」。一人の女優として評価される世界で踏み出した第一歩はきっと貴重な経験になったのではないでしょうか。そして、ヲタクの僕等ならだれもが知ってる「人見知り」の彼女が毎日本当に楽しそうな表情で過ごしていた事。僕はその姿を見るだけでうるっとしてしまうんです。
「もし、神様が現れて過去に戻してくれると言っても、同じ道を選ぶ」 そう言った光島の言葉が僕の心に突き刺さりました。どんなに今が苦しくても、それを選んだ自分を誇る。そして、同じ道を再び選ぶ。そう…そういう生き方をしたい…僕がいつも思っていた事なんです。
最後に大好きなシーンの事を書こうと思います。 先ほど書いた先輩とのシーンも大好きなんですが、やはりうめちゃんのラストシーンかな…と思います。ただ一人、ヒロイン二人とともにストライキする道を選んだ北川が二人の元から去っていくシーン。切ない思いを振り切るように談話室のドアを閉める事もせずに立ち去る時の切ない表情。このシーン…7回泣きましたよ。はいw
さて、夢のような時間は終わりました。 明日から、また僕は病院に戻ります。
でも、僕は大丈夫。 カーテンコールで見せた、満足そうなやり切った表情。清々しいまでの笑顔を見れて、僕はまた力をもらいました。
夢のような時間を…ありがとう。
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