top of page

大切な想い出 ~舞台『13月の女の子』

  • 執筆者の写真: toohironman
    toohironman
  • 2018年12月4日
  • 読了時間: 15分

そのニュースは、想定していたのと違う形で僕の耳に入ってきました。 その日は雑誌「Top Yell」の発売サイン会が予定されていました。当時、ノンシュガーのメンバーが毎号1名ずつ掲載されており、発売のたびに秋葉原のソフマップでメンバー全員がそろってサイン会を開催するというものです。 いつものように、少し早めに現地入りしようと電車で秋葉原に向かっていた時でした。

「をっさん、おめでとうございます!」 「うめちゃん、やりましたねー」 「全通ですか?」

メールやSNSといった文化は日本語から主語や述語を奪ってしまった…と言われますが…そういうことを言ってるのではなくwこの時は本当に、数人が送ってきてくれたメールの意味がまったく理解できませんでした。とにかく何かニュースがあることには間違いない。そう思った僕は、会場近くのカフェに入り情報を収集する事にしました。 連絡をくれた筋()から、元AKBのメンバーを中心にした舞台が決まった事、何人かのアイドルが共演するという情報がすぐにわかりました。その出演者の中に「梅山涼」の文字が。オフィシャルに情報解禁されるちょっと前にフライングで話が広まっていたらしく、それを聞きつけた友人がすぐさま僕に連絡をくれたらしいという話でした。

それを見た瞬間、僕はカフェの中で泣いてしまいました。涙を流すというレベルじゃありません。こんなとこでダメだとは思ったのですが、止まりませんでした。店内はかなり混み合っていました。隣に座っていたJD風の子はそっと席を立ちましたw 今まで大きな個人の仕事ってなかった彼女に訪れた「その時」。まだどんな舞台かもわからないのに、ステージの上に立つ姿を想像して、僕は涙が止まりませんでした。

サイン会前にノンシュガー公式からのアナウンスがあり、すぐに予約が開始されました。12日間16公演。この手の舞台にしては期間も長く公演回数も多いものでした。とりあえず、初日・千秋楽その他にも3公演程のチケットを確保。そこでサイン会の時間が迫っていたので会場のソフマップに入りました。

サイン会は、まずメンバー全員から並んでる順に一人ずつからサインをもらう所から始まります。並び列はいつもだいたい決まってて、彼女が最後になります。 「をっさん、おめでとー」 「やったじゃん。うれしいよね?」 「もうチケット買ったの?さすがだねえ」 彼女のとこに行く前にメンバーから逆にお祝いされてしまい、また僕はうるうるしてしまいました。このサイン会って結構ゆるーくてメンバー一人ひとりとゆっくり話せるんですよね。でも、この日他のメンバーと話したのってこの話題だけでしたw

彼女の番になりました。僕の顔を見るなり「ちょっと、なんで泣いてるの?早いからwww」爆笑するうめちゃん。たぶん目が真っ赤だったんだと思います。「おめでとう」っていう前にいきなり笑い出した顔。でも、その目はすごく優しかったです。

そのあと、個別サインの時間になり、この日結構な数の雑誌を買った僕は彼女と今の気持ちについてゆっくり話をしました。初めての舞台、初めての演技…きっと不安なんだろうなあ…そう思っていました。ところが、彼女の答えは「それよりも、知らない人の中に入っていけるかが心配で心配で仕方ないんだよー。え?一緒に写真撮ってくる?むりむりむりむりむり。絶対話かけらんない」でした。 え?そっちかよw 人見知りの彼女らしい心配でした。 「大丈夫だから!絶対に大丈夫。俺が保証する。うめちゃんは絶対に大丈夫」 もちろん、何かの根拠があったわけではありません。でも、その時の僕は真剣にそう思っていましたし、そう伝える事しかできなかったんです。 「涙は千秋楽まで取っとこうね」 彼女とそう約束しました。もちろん、僕はその約束を守る事なんてできなかったのですが。

ほどなくして、舞台に向けた稽古が始まりました。朝練や対バンに出る機会も少なくなるんだろうなあ…と思っていましたが、彼女はタイトなスケジュールの中、ライブに出続けてくれました。後になって聞きましたが、本当に分刻みのスケジュールで、マネージャーの小松原さんと一緒にダッシュした事も何度かあったそうです。物販に出れなくても、ライブだけなら…いつもほんわかしてる彼女ですが、ライブへの思い入れは相当に強いものがあるんです。おかげで、僕は寂しい思いをすることなく、彼女に応援の気持ちを伝え続けることができました。 ツイッター等のSNS(当時は755なんてものもやってましたね)では、稽古で頑張ってる姿や、あれほど無理っ!って言ってた共演者と一緒に写った写真が毎日のようにUPされました。特に親しい友人が推してる事から以前から知っていた八木ひなたちゃんとはすいぶん仲良くしてもらってるようでした。写真の笑顔が、この現場がいかに楽しく一体感をもっているかを教えてくれていました。ああ…毎日充実してるんだな…そう思うと僕も心から励まされた思いになりました。 すぐに彼女の変化を感じるようになりました。たぶん、それまで本格的な発声法なんてやったことないと思うんですが、毎日のレッスンの効果か歌ってる時の声量や音程にすごく安定感と迫力が出てきたんです。MCでも、それまでは大騒ぎしてるみんなを後ろから優しく見守ってるイメージが強かったのが、色々と突っ込みを入れてくるようになりました。そこには、初めてのチャンスをものにしようとする彼女の意気込みが感じられました。

年が明けてすぐ、舞台まであと2か月を切ったころ、僕はかつてより治療を続けていた病気がかなり深刻な状態であることの告知を受けました。場合によっては、桜の花を見ることができないかもしれない…そんなレベルの告知でした。覚悟はしていたとはいえ、僕の混乱は激しくもう何もかもが終わった…とすら思いました。 それでも、毎日頑張っている彼女の姿に励まされるように、突き動かされるように日々を過ごしました。 告知ポスターを作ったり、お祝いのスタンドフラワーの手配、それにそなえつけるプレートの制作。少しでも彼女を励ましたい。頭を悩ませまくって、公開されていた舞台衣装姿のイラストを友人でありAKBの有名絵師であるかぼさんにイラストを依頼したりして作り上げました。

初日。 「初舞台の初日。一生に一回の景色を心に焼き付けてください。不安でドキドキした今の気持ちも、期待でワクワクした気持ちも」 僕は手紙とともに、大きな花束を楽屋に届けました。毎回、観に行く日は小さくてもいいから花束を持っていこう。そう決めていました。まるで「ガラスの仮面の紫のバラの人みたいだなw」口の悪い友人に冷やかされたりしましたけどねw

「開演前、早めに席についておいたほうがいいよ」 そう聞いていたので、僕は開場すると同時に自分の席につきました。初日の席はS席。上手寄りの前から2列目です。ライブと違って舞台っていかに自分の存在を消すかが大事だと思っています。特に初日。僕の姿が目に入って気が散るようなことがあっちゃいけないですからね。 まだ、客席の入りも半分ほど。ざわつきも収まっていない時間帯でした。制服姿の3人がステージにそっと現れ、まるで何か稽古の合間に雑談をしてるような感じで並んで座りました。三人はスケッチブックを持って、そこに何かを書いています。時々ふざけあいながら。そう、まるで広い公園で美術部員がスケッチをしているみたいに…最初は三人だった人数がどんどん増えて、そして少しずつその場を去っていき… そして、静かに…静かに舞台の幕が上がっていきます。

ストーリーは「パラレルワールド」。現代と過去。異なる時空の中で進んでいく不思議なお話です。彼女の登場は前半部分。「現代に生きる主人公を取り巻く女子高生たちの一人」という役どころでした。ストーリーが大きく動くドラマチックな部分は後半の「過去」のシーンで、前半はその伏線というか舞台の世界観を表現するシンボリックな演出でした。同じセリフ、同じシーンを立ち位置を変え何度も繰り返す。2回、3回と繰り返す中、最後のセリフが、シーンが微妙に変わり次のシーンへとつながっていく。そんなちょっと難しい場面が続いていきます。

彼女のファーストシーンは、そんな中で仲の良い賑やかな三人組が追いかけっこをしながら舞台上手袖から下手袖へと走り抜けていくシーンでした。「をっさん泣くのはえーよ」何回目かに連番で観に行った友人に言われたんですが、僕はもうその登場シーンだけでうるうるしちゃうんです。一瞬の出番です。それでも、この瞬間のためにここまで彼女が重ねてきたものを思うと、僕はそれだけで感動してしまうんです。 彼女の役は「清瀬雫」(登場人物はすべて駅名が組み込まれた役名が与えられていました)。明るくて、ちょっとお調子者な役どころでした。HR中に先生にガヤを飛ばすようなそんな女の子。くしゃみをする仲良しの子に「ちょっときたない!」って連呼しちゃう…そんな子です。普段のうめちゃんは、むしろ周りが大騒ぎしてるのをにこやかに見守るタイプで、冷やかしたりガヤを飛ばすタイプではありません。だからこそ、普段とちょっとだけ違う役どころが「演技をしてるんだな」って実感を与えてくれて、その堂々とした姿にまた涙腺が緩んでしまうんです。

もちろん、泣いてばかりではなくちゃんとお芝居も真剣に観ていましたw この舞台は、中盤の恋ダンスのシーンで大きく展開を変えるのですが、全体を通してのトーンというか空気が変わらないまま進んでいくんです。話としては完全なハッピーエンドではありません。でも、この舞台が伝えようとしたテーマの一つが、僕の心を強く激しく揺さぶりました。 世界の終わりが見えようとする絶望的な環境の中、キーパーソンの一人である平田莉奈ちゃんが外の世界へと飛び出していくシーンがあります。 「どうしてそんなに強いの?」 そう聞かれた彼女はこう答えます。 「強くなんてない。でも決めたの。最後まであがいてやるんだって。もうだめだって布団の中にくるまってるのは違うと思うから」 「たとえ明日、世界が終わってしまうかもしれないくても、私はあなたに会いたい」 まるで、弱気になっていた僕を励ますかのように聞こえました。いや、実際にこの舞台が僕に生きる力のようなものを与えてくれたのは事実なんです。

大好きなシーンがあります。 ラストシーン。場面は再び「現代」に戻ります。でも、そこは最初にいた世界とは違う「パラレルワールド」。 最初のシーンでみんなで見上げた空。そこには、静かに舞い始めた白い雪が確かに降っていました。凝った舞台効果もなにもありません。でも、僕はそこに降る雪を間違いなく見ました。 そして、ラストシーン。同じように見上げた空からは、はらはらと散る桜の花びらが。実際にこのシーンでは少しの花びらが降ってくるのですが、そこにはない満開の桜の木々がはっきりと見えてくるんです。春を呼ぶ鳥の声が聞こえ、あたたかなそよ風を感じたんです。 大切な誰かのことを思って、心の隅っこに暖かい光が灯されたような、そんな優しい気持ちになれる舞台でした。

後で聞いた話ですが、初日、彼女の体調はあまりよくなかったみたいです。カーテンコールで姿を見せた彼女の笑顔は安堵と満足感でいっぱいに見えました。相当緊張したんでしょうね。でも、何かを超えた…そんな予感がする笑顔でした。

僕は翌日以降も舞台に通い続けました。全16公演中、11公演。ほぼ毎日のように西新宿の劇場に足を運び続けました。当時、僕の足はマヒが始まっており、寒風吹きすさぶ中杖をついて駅からの道を歩くのはそれなりに大変な思いだった記憶があります。それでも、毎日が楽しかった。幸せだった。そう心から思えました。

毎日、何かのメッセージを込めて僕は花束を受付に届け続けました。そうしてるうちにスタッフさんともいろんな話をするようになりました。あのシーンのここの部分に感動した。そんな話を熱く語ったり。 何日目かの日、そのスタッフさんが僕にそっと声をかけてきました。 「今日、座席どのあたりですか?」 彼女の演技は、ほとんどが上手付近で行われることもあって、当日券で座席が選べる時はお願いして上手のあたりをお願いしていました。この日もそうでした。前から4列目。じっくりと演技を見るにはベストの席です。すると、スタッフさんがさらに声を細めて… 「実は、今日うめちゃん前説やるんですよ」 前説というのは、ご存知の通り幕が上がる前に諸注意等をアナウンスしたりするのですが、この舞台ではAKS所属メンバーをはじめ主要キャストの中から2名が務めることがほとんどでした。そんな中、キャスト掲示順も後ろのほうの彼女が前説に抜擢されて登場するなんて…驚いている僕に「ちょっと待っててください」とスタッフさん。しばらくして戻ってきた彼の手には下手側の席のチケットがありました。「よかったら一番近くで見守ってあげてください」。前説は下手側で行われます。そんな配慮をしてくれたスタッフさんが、実は演出の戸田さん、脚本の角畑さんだという事を知ったのも後の話ですw

「え?そんな前で見てたの?全然気づかなかった」ってくらい、彼女は集中していたみたいです。前説を務めた彼女の足が小刻みに震えていた事、一言一言をかみしめるように発していた時の表情、しゃべり終わった後にふーっと大きく息をついた姿。すべてが、まるで夢の中での出来事のようでした。でも、僕はその姿をしっかり覚えています。その晴れ姿を一番近くで見ることができた。それは、この先も僕の大切な想い出の一つです。

何度も足を運んでると、いろんな出会いというかふれあいに恵まれることがあります。この舞台では前物販が実施されており、パンフレットや台本、生写真やオリジナルTシャツなどを買うことができます。何人かの出演者が物販に参加していましたが、ほとんどはAKSメンバーとあとプチぱすぽ所属の八木ひなたちゃんでした。八木ちゃんとは、うめちゃんが何度も何度も一緒の写真をツイッターにUPしていたので仲良くしてもらってるってことで物販に挨拶に行きました。

「うめちゃん推しなんですよ。あ、てーかくん(八木ひなた総合TO()として暗躍していた強カメコ仲間)の友達です」って切り出すと「あ!をっさんでしょ!朝練!!」っていきなり反応されてしまいましたw なんでも、うめちゃんのことを「朝練」って呼んでるらしくw 「うめちゃんから話聞いてるよー」って言われましたが、いったいどんな話を聞いてたのか一抹の不安が…

ちょうどTシャツ買うとサイン、フォトブックを合わせて買うとメッセージを入れてもらえるってことなので、それぞれを購入。親しく話をしてたからなのか受付のおねーさんが「サインは八木でよろしいですね?」って聞いてきたので「いや…」って言いかけると、今度はTシャツを渡してくれたひらりーが「違う違う。をっさんはうめちゃんでしょ!」 え?いや…俺、ひらりーから認知あるどころか喋ったことさえなかったんですが…「だって、有名じゃん!楽屋でも」いや、確かに毎回花束抱えて現れるおじさんって目立つとは思うんですが…いったいどんな風に有名だったのかは…まあ、うれしい事として思いこんどくことにしますw

八木ちゃんはほんとよくしてくれたんですよねー。違う日の物販では「あーをっさんをっさん。やっぱ今日も来たんだ?ちょっと待っててー」といきなり備え付けの電話で「やっぱ来てるから。早く早く。こっち来てよ」ってうめちゃん呼び出してくれたり…物販に出る予定もなかったうめちゃんが戸惑いながらも来てくれてそのあとしばらく立ってくれたんですよね。結構な人が彼女のとこに集まったことと、なんかしばらく直接話してなくて照れたってこともあって少ししか話せなかったんですけど…本当にありがたかったです。 「必ずライブ観に行くからね」って八木ちゃんと約束しました。

そんな幸せな日々も終わる日…千穐楽がやってきました。 途中から余裕が出たのか、細かいシーンにアドリブを入れてきたりして、常連を楽しませてくれていたのが、すべて初日の通りの基本のセリフに戻りました。ああ…これでこのシーンを観るのも最後なのか…そんな感慨に浸りながら淡々と、そしてとても愛おしく時間を感じながら舞台が進んでいきます。僕にとって、そして彼女にとって大切な「清瀬雫」とのお別れの時間がどんどん迫ってきます。 そして、ステージに最後の桜の花びらが舞い、12日間16ステージのすべてが終わりました。「涙は千秋楽までとっといてね」その約束を、彼女は最後まで守りました。きっと、この日に至るまでに悔し涙を流してきたのかもしれません。でも、彼女はずっと笑顔でした。 でも、カーテンコールに現れた彼女の顔は、涙でいっぱいでした。こんな泣き方をするんだ?って思うほど、想いのすべてが込められた涙でした。やりきった人だけが味わう事のできる美しい涙。笑顔の中に輝く涙。僕はそれが世界で一番美しいものだと知っています。僕は、この場でそれを目の当たりにして幸せをかみしめました。

鳴りやまない拍手の中、出演者が横一列に並んで深々と頭を下げた瞬間でした。誰からというわけでもなく一斉に観客が立ち上がりました。頭を下げた出演者が再び顔をあげて客席を見るまでの間のほんのわずかな瞬間にすべての観客が一斉に立ち上がったんです。 満場のスタンディングオベーション。いつまでもいつまでも鳴りやまない拍手。顔を上げた彼女がその景色を見た瞬間の顔を僕は生涯忘れません。どんな花束や、お祝いのプレゼントなんかより、きっとこの景色が僕らから贈れた最高のプレゼントだったんだと思います。肩を震わせて涙を流す姿を僕は今でもはっきりと思い出すことができます。きっと、これから先もずっと。

雫ちゃんとして過ごした日々が終わり「うめちゃん」が僕のとこに戻ってきました。 「おかえり」最初に僕がかけた言葉です。

知らない人の中に入っていく事をあんなに不安がってた彼女のSNSは、共演した仲間との写真でいっぱいでした。ノンシュガーに戻ってきた彼女は、堂々として少し大人になったように見えました。きっと、目に見える事だけでなく、彼女にとってとても大切なことを得た素敵な経験だったんだと思います。

「もっと大きなステージで歌いたいなー」夢というと、そんな感じの答えをしていた彼女が「将来演技の仕事をしたい。女優さんを目指したい」そんな風に語るようになりました(オールナイトニッポンi等から)。彼女にとって、この舞台での経験は、その小さなきっかけになったんじゃないかなって思います。

あの、ステージの上で見た笑顔と涙。 梅山涼から違う子になって、そして戻ってきた時の笑顔。

「ただいま、をっさん」 もう一度、その声が聞きたいな。


 
 
 

Comments


特集記事
後でもう一度お試しください
記事が公開されると、ここに表示されます。
最新記事
アーカイブ
タグから検索
ソーシャルメディア
  • Facebook Basic Square
  • Twitter Basic Square
  • Google+ Basic Square

Directed by wotawossan

  • Twitter Classic
  • Facebook Classic
bottom of page